マススペクトルから分析種の分子量情報が得られると考えている人が多いですが、多くの低分子化合物の場合これは間違いで、正しくは分子の質量情報です。この事は、2-ブロモアントラセンのような化合物を例にとると分かり易いです。左の図は、2-ブロモアントラセンのレーザー脱離イオン化によるマススペクトルで、m/z 256と258にほぼ同じ強度のイオンが検出されています。これらは、前者が臭素の主同位体79Brを含む分子から電子が1つ脱離したイオン、後者は81Brを含む分子から電子が1つ脱離したイオンです。臭素元素の同位体天然存在比は、79Br:81Brが約1:1ですので、両イオンの強度比は、この天然存在比を反映しています。左に示したように、2-ブロモアントラセンの分子量(相対分子質量)は、約257であり、その情報はこのマススペクトルからは得られません。このマススペクトルから得られるのは、2つの臭素の同位体を含むそれぞれの分子の質量情報です。
このように、マススペクトルに関する正しい知識をセミナー等でお伝えしています。